世界を渡る四の天災
 前の世界で使われる事の無かった魔力の、切れ端のような部分を起動させる。ヨミオクリは俺の魔力に呼応して、刃を白く輝く聖剣へと姿を変える。敵の本隊は俺に気付いて居ないのだろう。視力強化をした俺から見ても、何一つアクションを起こさない。



「斬世の狭間に呑まれるが良いッッ!!」


 不意打ち上等。レッツ闇討ち。俺の斬世は空間を裂き、斬世が生み出した次元の狭間へ敵を叩き落とす技だ。回避不能、防御不能。一切の行動は無意味。ラスボスだって即死する。



 気付けば平原の敵軍は一騎残らず消滅していた。思い返せば敵の中には炎弾を撃って来た奴も居た。コレは素晴らしい。言わばこの世界、黒い狼がモンスターならば魔法とモンスター、敵国まで存在する超絶RPG。魔術、魔法による戦争を経験していた俺も、モンスターと戦った事は無い。高ぶる気持ちを抑え、冷静になる。さて、この後はライトノベルとかゲームとかなら王様の下に行って…ってなるんだろうけど。生憎俺は天才だ。そんなお決まり且つイージーな未来は好まない。



「とりあえず女になるか…別人格も幾つか作ろう。力とか特徴とかはそれぞれ用意して…。」





 四々綺 明神。否、今日から彼は死々斬 覇全(シシギ ハゼン)と名を変えた。自らの名、体を全く別の人格、全く別の存在の四人に預けて…。










「ど、何処だ、確かこの辺に…」
「居たぞ、ブラック・ハウンドだ!」

 銀の鎧で身を覆う兵士達が黒く煌めく鎧を纏った男に近づいて行く。男は倒れたままその場を動かない。鬼神の如き力を放ったあの黒い剣も、今や何処か弱々しく日の光を反射するのみ。

「油断するな、その男は万の帝国軍勢力を一人で薙払った男だぞ…!」


 兵団長と思われる男が兵士の二人に命令する。兜を剥げ、と。
 兵士二人は冷や汗を垂らしながら男の兜を剥ぎ取り―――絶句した。

 弱々しく息をし、頬を僅かに紅潮させ、黒く綺麗に伸びた髪は彼の鎧の様に煌めいている。そしてその顔立ちは神が直接手を入れたのではないかと思わせる程美しく整っていた。…整って…男…?


 兵士二人の汗は止まる事を知らない。寧ろその勢いを増しているかのように思えた。
 
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