優しく撫でる嘘。
彼は記念日の出来事から今までの記憶がまるで無く、空間を巻き戻ししているかのようでした。

私は事実を伏せることにしました。
私は恐れていたのです。

事実を伝えることで彼が私のもとから消えてしまうのではないかと。

今の私には何が正しいとかではなく、彼とずっと一緒に居たいという自己中心的な感情で縛られていたのです。

それから私たちは家で過ごすことが多くなりました。
いや、正確に申しますと家から出ることが出来ないのです。

それは、私が外出することを避けるようになったからです。
何故かと申しますと彼の姿は私以外の人には見えないのではないかと思ったからです。

それと、他人から見ると私は独り言を言いながら歩く変人と思われてしまう恐れがあるからです。

そして一番の理由は彼が不自然に気づき、事実を知ったら消えてしまう恐れが生まれてしまうのです。

そんな考えの結果、私は外出はしないで家で過ごすこと決めたのです。

いつも通りに食事をし、いつも通りに一緒に夜を過ごしました。

しかし、私の毎日は不安と罪悪の繰り返しなのです。
私の脳の片隅に常に存在していることがあるのです。本当にこのままで良いのだろうかと……………。





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