君への距離~クリスマスの奇跡~
少しためらったあと、杏は緊張しながらケータイの通話ボタンを押す。
「…」
「もしもし?」
聞き慣れた翼の声。
「…ごめん、寝てた?」
「……ううん、大丈夫」
「よかった、
なんか声、聞きたくて…。」
そう言って、少し照れくさそうに笑う翼。
「今、バイト終わったんだ!
でも夕方、マサキんちでちょっと寝たから目冴えちゃって」
「あたしも…
あたしもさっきまでマサキんちにいたの。」
「そうなの?でも今日マサキもリョースケもバイトだったんじゃない?」
「うん。リサとね、いっしょに…」
杏はシオもいたことを言えなかった。
「そっかぁ!すれ違いだったんだね」
―すれ違い…
杏の頭の中で翼が何気なく言ったその一言がぐるぐる回って、その後の会話が全然入ってこなかった。
「杏ちゃん、今から出られる?」
「ん…、え!?」
杏はハッと我に帰る。