─ Alice ?─




優しい風が吹く
夕焼けが眩しい




そして聞き覚えのある
少女の泣き声



「ママー!!ママー!!
どこぉ…ひっく……ママーぁ!」


大声で泣き叫び母を探す少女


分かりたくないけど
嫌なくらい分かる






……私だ。



「ぐずっ…ママ…?ママ!!」


遠くで女性がこちらを
ぼんやりと見ていた。


「どこいってたの?
なんでいなくなったの?
ママいないと寂し…」


寂しいよ


そう言いたかったんだ。


いつも寂しかった。

父親はいなかった。
理由は知らないけれど。


母はよく私を
押し入れに閉じ込めた。

絶対に出てくるな、と
冷たく言い放ち。

そう言われた数分後には
いつも知らない男の声がした。

きっと私は邪魔なんだな、と
心の片隅で理解していた。

なのに


「ママ、どうして
ひとりぼっちにするの?」


我慢できなかった
わかっていたのに


愛されていないことなんて


「……ま、な…よ…」


「え?なに、ママ…聞こえな…」




「邪魔なんだよ!!
お前がいなきゃ私は
自由なんだよ!!」


吐かれた暴言

そして向けられた冷たい眼差し


「マ、マ……
わ、わたしのこと嫌いなの?
ひとりぼっちにするの?
な、んで!どうして!?
ママ、わたしの名前…」


わたし の 名前



「なんでお前みたいな
いらない子に名前をつけなきゃ
いけないわけぇ?


独りが嫌なら死ねば。」



【 死ねば 】


実の母に 唯一の家族に
捨てられたんだ、と
理解するにはあまりに
重い言葉だった。


名前すらなかった少女時代


私は母に捨てられた
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