─ Alice ?─



「ぐずっ…ひっく…ママ、ママあ…」


少女の涙は止まらなかった


そして私の胸騒ぎも止まらない


駄目、泣き止んで。
声を発しちゃ駄目。




「ママーーーー!!
ひとりにしないでぇ!!」



可哀想な子


『可哀想な子。』


「……だあれ?」


ひとりぼっちなんだね


『ひとりぼっちなんだね。』


「うん…ぐずっ…ひとり…」


ほら、まただ。
話の先を知っている。


言葉が次々に浮かんでくる。


『君、名前は?』


「……わからないの。」


『名前がないの?』


「……うん。」



『可哀想な女の子。

僕が君を救ってあげる。』


スッと何かを差し出し、
にっこりとお兄さんは笑う。




…─ お兄さん ?



「なあに?これ…カード?」

見覚えのあるトランプのカード


しかしそれは
私がもらった記憶のものとは
少し違った。


『♪─ハートとダイアは真っ赤が印

スペードクローバー真っ黒が印─♪』


「ふふっ♪面白い歌!

ねえ、お兄さんのお名前は?」



駄目、聞いては駄目。

戻れなくなる。


【 アリス 】になったら
もう元には…─




『僕の名前は黒兎。

可哀想な可哀想な女の子。


君は今日から【 アリス 】だよ。
そして君は





今日から僕の家族だ。』



ニコリ、と笑いお兄さんは言う。


私の大好きだった


黒兎お兄さん。
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