偽りの仲、過去への決別
祖父は何も言わず、ただ頭を下げていた。 リハビリは、一週間に一回の割合で大学病院に通った。いつも祖父が付き添っていた。 リハビリの先生は、美人で優しかった。カズは、一週間が待ち遠しくてしょうがなかった。 カズは瞬くうちに、言語障害が治った。治ったことは嬉しかったが、複雑な心境でもあった。 先生に逢えなくなることを思えば、もう少し考えて、治らないふりでもすればよかった。 大学病院の大人の女の先生への憧れと淡い恋心が、言語障害の完治とともに去って行った。 カズは、同じクラスも結衣が好きだった。結衣は、可愛いくて、クラスの人気者だった。 松山も、隣りのクラスの恭子にふられて以来、結衣を好きになっていた。 立ち直りが早い松山は、カズの隣りの席にいる結衣目的に、いつも話しかけていた。 仲の良い2人が同じ女の子を好きになるなんて。カズが結衣のことを好きなのは、知らない。 カズは、松山に本当のことを話そうと思った。話しところで、結衣は、明らかに、2人のことなんて眼中になかった。 カズは、松山に話した。すると松山は、 「まあ、しょうがないか。これからはライバルだ。」 と言った。 「ライバルかどうかわからないけど、結衣は好きな奴がいるんだ。」 「誰なんだよ。そいつは。」 松山は声を荒げた。「洋二だよ…。あの。」 洋二とは、クラスの学級委員で、典型的な何でも持ち合わせいる男だ。洋二が相手とわかると、松山は意気消沈してしまった。 「あの洋二かよ。」スポーツも勉強もできる洋二には、2人がかりで喧嘩を売っても玉砕は免れない。でも三十年後に同窓会を開くと、結構ハゲで太っていることもある。しかし、カッコイい奴は変わらない可能性もある。悔しいけど馬鹿な未来への儚い希望は止めておこう。
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