偽りの仲、過去への決別
帰る方向が一緒なのもあるが、ヒロは2人の後を、話しかけてくるわけでもなく毎日付いてきた。「あいつ気持ち悪いなあー。」 カズは松山の知り合いだとは、この時点では知らなかった。 松山は、恭子のことでうんざりしていたからか、ヒロの存在が疎ましかった。 いや、恭子に関係しているものすべて記憶から、忘れようと思っていた。 だからカズには、ヒロの存在を言わずにいた。「いや、気持ち悪くはないと思うけど。」 松山は口調の歯切れが悪かった。 カズは、松山の知り合いだと、うすうす感じていた。「あいつ松山の知り合いじゃないの。」 松山は、頷いた。「知っているよ。あいつ隣りのクラスのヒロって名だよ。」「どうせ、恭子を見に行った時に仲良くなったんだろう。」 松山は、カズに本音を言われた。 「バカ、そんなことないよ。」 松山は動揺した。 「友達だろ~。ウソつくなよ。」 カズは、松山を睨みつけた。 「わかったよ…。カズだけには、心配ていうか、同情されたくないっていうか。わかるかな。」 松山は、声を荒げた。 カズには、松山の気持ちがよくわかった。カズだけには、心配されたくない理由を。 カズが、家族のことや、学校での苦しみを、間近に見つめていた松山にとって、松山なりに気を使っていたのが。 しかし、カズは、そんなことで、松山が気を使うことが、腹立たしく思えた。家族の間に、会話が存在しないカズにとって、唯一松山が、頼りになる人間であり、心の支えであった。 松山は、自分なりの考えがあった。単純だと思えた人格だが、カズのことが、大好きで、尊敬もしていた。学校で笑いものにされても、平気な顔をしているカズが不思議であった。その精神の強さに興味を持った。だからこそカズを知りたい一心で声をかけた。 松山と同じ気持ちを持っているクラスメイトも、結構いた。 カズは気付いていないが、松山やクラスメイトにとって、ただ笑われる存在より、タフなとてつもない人間に見えていた。
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