偽りの仲、過去への決別
松山は、カズを知って明らかに人生観が変わった。もし自分がカズの立場だったらと。 カズみたいに日々暮らせるのだろうかと。 一回だけ、父親である松山先生に、松山は、カズのことを話したことがあった。 松山先生は、先生の立場ではなく、父親として話した。「人には、いろんな意味で運、不運がある。でも、人間が生き抜くには、絶対に付きまとうことなんだよ。」 「じゃあ、カズは不運なの。」 松山は質問した。 松山先生は、やはり職業上、息子に対して、学校の生徒の目で見つめていた。 そんな父親に、松山は、苛立ちを覚えることがあった。しかし、カズを通して、胸の中に渦巻いていた不信感が晴れる思いがした。 「カズは、辛いだろうなあ。俺には、家の事情話さないし…。」 「カズはきっとお前といる時は、楽しみたいんだよ。家のことなんか忘れて。」 松山先生は、息子に向かって優しく言った。 松山は、カズにだけは心配されたり、同情されたくなかった。なぜなら、カズみたいに、強くなりたいと思っていたからだ。「なに意地張ってんだよ。バカみたい。」 カズは、強い口調で言った。 「なに意地張ってんだよ。バカみたい。」 カズは、強い口調で言った。「意地張ってなんかいないよ。」 2人は、立ち止まって、言い争いになっていた。 ヒロも立ち止まり、2人の経緯を見守っていた。 松山は、カズに対して後ろめたさを感じていた。しかし、素直になれない自分も、その場所にいた。 カズの心境も複雑であった。松山が隠し事をすることが。「もういいよ。隠し事する奴なんて、嫌いだよ。」カズが言った。「嫌いで結構だよ。人の気持ちもわからないくせに。」 この日を境にカズと松山は、学校でも口を聞かなくなってしまった。 カズにとって松山の隠し事が許せなかった。 松山は、カズのことが好きで、隠し事した自分を正当化していた。 だから素直になれなかった。
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