偽りの仲、過去への決別
カズは、又一人ぼっちになってしまった。元々転校生で、居場所がなかったカズは、もと通りになっただけだと思った。 松山の周りには、昔からの友人がたくさんいた。 2人の様子が、おかしいことを、隣りの席の結衣が心配そうに、カズに尋ねた。 カズは結衣とは、これまでまともに喋ったことなんてなかった。 カズは結衣のことが好きだ。 顔は可愛い。声も可愛い。何をやっても上手。おまけにクラスのマドンナ。 しかし、結衣の好きな男は、洋二。 クラスのまとめ役で、これまたクラスの人気者であった。 カズと松山の共通の敵。 松山は、隣りのクラスの恭子にふられると、本音は結衣のことが好きだと、カズに宣言した。 カズにとっては、後から来て、図々しいと思ったが、結衣が洋二が好きだと知っていたので、どうでもよかった。 結衣は、カズにとって憧れであり、隣りの席にいるだけで幸せであった。 結衣の実家は、定食屋さんで、けっこう店の手伝いをしていた。店では、お客さんに可愛がられていた。 結衣は、いつも休み時間にカズの席に遊びに来ていた松山の姿がないことを気にしていた。 「ねえ~、近頃松山君と喧嘩でもしたの。」 カズは、結衣に話しかけられた。ついに、夢にまで思い描いた展開がやってきた。松山を失ったのは痛がったが。「そんなことないよ。」 カズはなぜだかぶっきらぼうに答えてしまった。 でも結衣は、カズの動揺を見透かしているようだった。「だってあんなにいつも一緒だったのに。」 結衣は、カズに微笑んでくれた。 カズは舞い上がっていた。全身が震え、まともな応対が出来ずにいた。 カズは、自分の動揺を結衣にばれないように、どうでもいいような話し方をした。 「松山は、ほかの友達がいいんだって。」 カズは、ぶっきらぼうに言った。好きな結衣の前でなんと愚かな態度しかできない自分を心の中で呪っていた。 結衣は、そんなカズの態度を気にしてはいなかった。「そんなに意地張らずに仲直りすれば。」 カズは、結衣とまともに喋れたことが嬉しくてしょうがなかった。 松山との関係は、あの日以来平行線のままだった。
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