偽りの仲、過去への決別
結衣は驚いた。カズからの唐突な質問があまりにも性急だったからだ。 洋二はまんざらでも表情を浮かべていた。 結衣は、カズを睨んでいた。「私、別に洋二君のこと好きじゃないから。」 噂が先行してうんざりしていた。いくら否定しても、ただの照れ隠しだと思われていた。 結衣はこれで洋二に勘違いされずにすむようにはっきり言った。 洋二は、がっくりと肩を落とし何も言わずその場を後にした。 「ねえ、今度うちに食べに来ない。」 結衣は、さっきまでの重苦しい雰囲気を忘れるかのように話題をかえた。 結衣は温和で、可愛い笑顔が戻っていた。 「家に帰っても、誰もいないんでしょうだったら食べにおいでよ。」 確かに、誰もいない。いや正確に言うと兄貴がいる。でも一人で食事をして、部屋に閉じ込もっている。近頃、会話もしない。カズは兄が嫌いだった。顔もみたくなかった。 カズが、一人で寂しい思いをしていても、話しかけてくる事もなかった。 完全無視する兄は、学校では案外人気者だと聞いた。 いつしか、カズも兄の事をシカトするようになった。 たまに、心配で祖父がやって来るぐらいだ。 結衣もうれしそうに見えた。ひょっとして、結衣はカズの事が本当に好きなのかもしれないと、周りのクラスは、思い始めた。 カズにとっては、結衣がカズの事をどう思っていようと、今現在、結衣と話しができるだけでよかった。 「うちの店、A定食かB定食かオススメメニューだよ。」 「そうか。お店に行ってから決めるよ。」 カズの背中に突き刺さるような視線を感じた。結衣の事ですっかり心が舞い上がっていたからか、周りの人間達の存在すら忘れていた。 背中の視線の相手は、松山であった。いつの間にかカズの後方に近づいて、話しを聞いていたのだ。 担任教師が教室に入ってきた。結衣との楽しい休み時間が終わった。 「AかBどっちにしようかな」、 松山に聞こえるように言った。 松山は寂しいそうだった。