偽りの仲、過去への決別
松山に衝撃が走った。なぜこんなに笑われて平気なのかわからなかった。 いや、平気なわけがなかった。いつも一人でいるカズが、松山は気になってしょうがなかった。 知り合いもいない。たぶん頼りになる人間もいない。 そんな孤独なカズが、松山に向かって、他のクラスメイトを差し置いて一回だけ喋りかけてきたことがある。 その時は、松山が緊張してしまった。覚えていることと言ったら、カズが普通に喋ったことだ。 今まで、いつも周りに人がいることに慣れていた松山は、カズを見て、自分の小さい視野と、孤独が生み出す強さを感じていた。 松山は、カズと知り合いになりたいと思った。他のクラスメイトもさすがに、カズの心の強さを認め始めていた。 笑うクラスメイトは、日が経つにつれ、減ってしまった。 ほとんどの、クラスメイトは、この場所で生まれ、育った。だからあまり孤独になったことはない。 だから孤独に慣れているカズがどこか新鮮に見えた。 松山は、カズに声をかけた。そして仲良くなり、友達になった。 時間が2人の友情を深めていった。 松山は、カズを知れば知るほどショックを受けた。今まで考えたこともないことに疑問を持ったりした。 カズは、松山の家にいつもいた。 松山自身、カズが家にいつもいることがなぜだか嬉しかった。 松山はとにかくカズが好きになった。いや、心のどこかで尊敬をしていた。 カズは松山の兄弟をとにかく可愛がった。愛情に飢えていたカズが、嬉しいそうに笑うと松山自身が嬉しかった。 松山はカズのことをたくさん知りたかった。 しかし、カズは家族のことはあまり喋ったりしなかった。 松山はカズに喋ってほしかった。でもある日、松山は漠然とカズの事情がわかった。 カズはひょっとしたら、話したいけど話さないのではないか。 松山の父親である、松山先生が、2人にいろんな話しをしてくれたことがあった。あの時、カズは松山よりも真剣に話しを聞いていた。 カズは松山の家で、父親や母親の姿、家族の愛情を学びたい気持ちで一杯だったことを松山は感じていた。