偽りの仲、過去への決別
「俺もう行かないよ。一人で行けよ…。男なんだから。」 カズは、呆れて言った。 松山はしょうがなく一人で行くようにした。 隣りのクラスに、前に同じクラスになったことがあるヒロがいた。 ヒロは一人になった松山に声をかけた。 「ねえ~今日は一人。いつも廊下からうちのクラスを見ているけど、どうして。」 松山は戸惑った。 なぜなら、ヒロの顔に見覚えはあるが、喋ったことなんてなかったからだ。 ヒロに対して、まったくと言っていいほど印象がなかった。だからどんな形で接していいかわからなかった。 「いや別に。ちょっと用事があって。」 松山はヒロと、目を合わせずに言った。 ヒロに詮索されることが不愉快であった。 「俺知ってるよ。恭子のことが好きなんだろう。よかったら俺の席に来て見ない。ここからだとよく見えるよ。」 確かにここからだと、恭子の席がよく見えた。 松山はヒロの考えに同意した。単純な松山はすぐに行動に移した。 廊下からスキップしながら、ヒロに近づいて行った。 松山はそれから毎日、恭子に振られるまでヒロの席に通った。 松山は、急速にヒロと仲良くなった。今までの印象とは違い、けっこう明るい奴だとわかった。 第一印象があまりに悪かったヒロは、なぜか、周りの人間達は避けていた。松山もその一人だった。 印象の悪さで損をしていると、その人の性格まで歪められて見られてしまう。 確かに容姿の印象で、損をすることも多いが、それだけで永久に印象が悪いとは思われないだろう。 事実、顔が怖いとか、暗いとかの印象を相手に植え付けてしまう。 しかし、自分が楽しく、笑っていれば、不思議と顔の表情がほぐれ、柔和なイメージを醸し出し始める。 松山はカバにそっくりだが、いつも笑っているからか、愛嬌のある顔をしている。 松山は、自分自身をけっこういい男だと思っている。人が最初、自分を見て笑っても、気にはならなかった。 結局、みんな松山のことが好きになった。もちろん同性同士のことである。