偽りの仲、過去への決別
カズは両親に頼られたかった。何もできないかもしれないがとにかく頼られたかった。 でも何もできずにいた。悔しい思いだけがカズの心を支配してしまった。 だからどんなに信頼できる松山先生でも、カズが話すことにより、両親への不信感だけが浮き彫りになり、自分自身をより一層無意味な人間に感じてしまう思いがあった。
松山は、カズの入院している病院の入り口に立っていた。 カズには、面会謝絶で会うことはできない。しかし松山は何かしないと自分の気持ちが収まらなかった。 松山は待合室を抜けると、階段を登り、二階の病室からしらみつぶしにカズの病室を探し始めた。
先のことなんか考えて行動なんてしてられない程松山はカズと合いたかった。 二階にはカズの名前はなかった。 松山は急ぎ足で、階段を登った。 三階でカズの病室を見つけた。 松山は面会謝絶の札を見ると、病室の前で立ち止まった。
松山は静かに病室のドアを開けた。すると部屋の奥でカズの姿を捕らえた。 カズの顔が、部屋を照らす太陽光線にくっきり映し出された。顔の傷がまだ完治しておらず、痛々しく見えた。
松山は周囲の状況を観察した。 カズの病室には誰もいなかった。 松山はカズに向かって声をかけた。 「オーイカズ聞こえるか。」 松山の声に反応はなかった。そこで松山は勇気を持って病室の中に入ることにした。
松山は忍び足で一歩一歩カズのベッドに近づいて行った。 松山は止まった。そしてカズの顔を覗いた。 カズは眠っていた。松山はカズの耳側で囁いた。 カズは何の反応もしなかった。それでも松山は囁いた。 松山は涙が出そうになった。しかし泣くわけにはいかなかった。 カズの前で泣くわけにはいかなかった。カズが今、目を覚ました時に泣いてなんかいたら申し訳ないからだ。 何にもしてあげられない自分が泣いてどうするだという気持ちが松山を支配していた。 松山は諦めずに何回もカズに話しかけた。
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