偽りの仲、過去への決別
とにかく松山の家は、温かい雰囲気と和やかな親子関係に満たされていた。 カズの神経質なほどの警戒心が松山の家族に対しては、ほとんどなくなっていた。 先生はある日2人に向かって言った。 「自分の為に勉強するんだ。この意味がわかるか。」 カズと、松山は首を左右に振った。「まだわからないか。そうか。」 松山先生はどことなく寂しげに見えた。 この時代、全国の隅々まで受験勉強の嵐が吹き始めていた。今までの受験は、勉強ができる人間だけが対象だったことが、すべての人間に広がり始めたことだった。すべての人間が、無関心に過ごすことができなくなった。 松山先生は、これから二人が、待ち受けるであろう、受験に悲壮感を漂わせていた。先生自身が本当はどう表現していいのかわからなかったんじゃないのだろうか。しかし松山先生は、教育者としての役目があった。 「どうして勉強するのか。それは、大人になって、なりたい仕事が見つかった時に役にたつからだよ。」 松山先生は、カズと松山の顔を交互見た。 カズは一応頷いた。正直に言うと、カズは、理解できずにいた。 勉強して、大人になっても、両親みたいになるのが怖かった。
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