偽りの仲、過去への決別
松山は、学校の先生の意見ではなく、父親の意見を本当は望んでいたのだろうか。 「父さんは、勉強以外なこともたくさんやることがあるというけど、結局、勉強をたくさんやることがいいだよね。」 松山は、それだけ言うと、席を立ちその場を立ち去った。 松山先生は、なにも言わなかった。 松山と、先生は、カズと違って親子である。自分の意見が違っていても、きっとお互いに分かり合える所がある。カズは、そんな親子関係がうらやましく思えた。 松山は相変わらず、いつでもどこでも元気だった。性格も単純で、立ち直りも早かった。 松山に好きな女の子がいた。隣りのクラスで、恭子という女の子だった。松山は、たまに隣りのクラスに遊びにいっていた。 松山は、ついに、勇気を出して、放課後学校の校庭で告白した。 それも恭子がいつも一緒に帰る友達3人の前で。「俺、お前が好き。」「私、キライ。」 一瞬にして初恋が終わった。 さすがの松山も1時間ぐらいは落ち込んでいた。 カズはカズなりに励まそうと思ったが、言葉が見つからなかった。二人は無言で歩いた。 二人が行く場所は、町全体が見渡せる小高い山であった。 いつもカズと松山は、山に行った。二人のお気に入りの場所であった。山の頂上には、手入れがされていない公園があった。 崩れかけた石のベンチに座ると町全体が見えた。 お世辞にも、綺麗な景色ではなかった。 海辺に建つ工場からは、たくさんの煙突がそびえ立ち、煙りを出していた。町の役目がまだ終わってなんかいないという意地みたいに思えた。 二人がその時がいつ来るのかわからない。 大人になったら、二人ともこの風景を思い出すことはなくなるだろう。でも決して忘れる事もないだろう。この記憶は、体の一部に組み込まれ、カズと松山の心の中で生き続けるであろう。 「ふられたね。」 カズは、勇気を振り絞って言った。あまりにも松山が落ち込んでいたからだ。「俺のどこが嫌いなんだろうか、恭子ちゃんは。」
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