偽りの仲、過去への決別
しかしヒロがなぜカズを恨んでいた事まではわからなかった。 ヒロに会って事実を知るしかない。果たして本当の事を話してくれるかわからないが。 しかし一方的に恨みを買うことは怖いことだ。自分に非がないと思い込んでいるからだ。
相手がわからないことは、どんな対応をとっていいかわからない。自分の知らない所で悪意の感情が育ち、知らないうちに自分の近くに迫ってくる。 準備も心がけもできないうちに、自分に向けられた悪意が、相手とともにやってくる。
驚きと恐怖感が同時に感情を支配してしまう。 しかし時間とともに、怒りや悲しみ、それと相手の本性がわかり、安堵感が去来する。 なぜなら相手を知ることは人間関係にとって最初の作業だからだ。 久保田は明らかにカズに何か隠し事をしている。
カズは聞いてみた。 「すいませんが。俺が眠っている間にどんな事がありました。俺だけが知らないみたいで…。」 カズの質問に久保田は考えていた。 カズは松山のことより、自分を傷つけたヒロ達のことを話すと思っていた。
これだけのことをして、ヒロ達には何も罰せられいないのは納得いかないからだ。だから久保田から今現在のヒロ達の動向を聞いてみたかった。 久保田はまだ松山のことを話すか迷っていた。やはり婦長の指示を仰ぐことが最優先だと判断した。
「今日はいいでしょう。明日話そうよ。」 久保田はとにかくカズの側から離れようとした。 少しでも時間を稼ごうとしていた。「俺は知りたいんだ。眠っていた間何があったのか。」 カズは食い下がった。 「何を知りたいの。松山君の事なの。」 カズは久保田の意外な言葉に困惑した。なぜ松山の事が問題なのか、ヒロ達の事ではないのか。 「俺が聞きたいのは、俺をこんな目にあわせた連中の事なんだよ。」
久保田は自分の間違いに気付いた。カズに変な先入観を逆に植え付けてしまったことを後悔した。 しかし残念ながらカズの質問に答えることはできなかった。久保田はカズを傷つけたヒロ達のことなんてまったく情報がなかった。 ただ入院してきた経緯だけしかわからずにいた。
< 91 / 132 >

この作品をシェア

pagetop