姫さんの奴隷様っ!
聳(ソビ)え立つ門は、その光景をただ静観していた。
地平線から太陽が昇るその瞬間、三つの影は現れる。
先頭を行くのは中央の影。その影を追いかけるのは左右の影。――もとい、"テルミット"と護衛の青年二人であった。
茶色の短髪に琥珀色の瞳を持った青年キサと、黒色の瞳を持ち同じ色のセミロングの髪を一つに束ねた青年ウヅキは、行き先も分からない"テルミット"の『忍びの外出』にヤキモキしつつも周囲への警戒を解くことはなかった。
夜明けを知らせる鳥達の歌声を気にもかけず、ただ黙々と歩を進める"テルミット"であったが、どうやら目的地は目と鼻の先であるようだ。
それを示すように、王都と小村とを繋ぐ巨大な鉄の門と、そこには不釣り合いな程ちっぽけな門番を捉えた灰色の瞳は、ゆっくりと細められる。
すると何か感づいたらしいキサが、沈黙を破るように声を発した。
「……"テルミット"ッ!そろそろ教えて下さっても宜しいのでは?」
「何をだ?」
「こーんな王都の外れまで訳もなく外出なさるお方ではないでしょう、貴方様は」
キサはここぞとばかりに主人への不満を漏らすが、それは最もなことであった。
王都と5つの小村からなる『オルガネラ王国』であるが、王都とはいえ小村との交通を支える門が聳(ソビ)え立つこの場所は、賑やかな王都中心街からは疎外された片田舎に位置するのだから。
キサの言葉は、そのような場所に理由も無しに赴くような"テルミット"ではないと察してのものであった。
そして、理由を告げず振り回されたことへのささやかな反抗であったのかもしれない。
それを見兼ねたのかやっとのことで"テルミット"の重たい口は開かれた。
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