姫さんの奴隷様っ!
 
 
 
「キサ、そうむくれるでない。何、たいした理由でなはいのだ。……各国を転々としている親友が――いや悪友と言うべきだろうか、そやつが久方ぶりに故郷へ帰還するらしいのでな。出迎えてやろうと思ったのだ」
 
 
「されど、"テルミット"直々に出向くのは……」
 
 
それまで二人のやり取りを傍観していただけのウヅキが口を挟むが、最後まで言い切らず途中で言葉を飲み込んだ。
『たいした理由ではない』と言った"テルミット"であったが、それには何処か悲壮感の漂う叫びのようなものが籠(コ)められていた。
 
 
 
「……そうだろうな。主人を制止するお前達二人が正しいのだろう。"テルミット"とはなんと厄介な地位であるのかと、若輩者の私は嘆いたものだ。友との再会にさえ、我が身に与えられた自由はないのだから――」
 
 
 
進む歩を休め、空を仰いだ"テルミット"は、己の運命を受け止めることに少し疲れてしまったのかもしれない。
公の場では、常に厳粛な態度。そして放たれた一言一句は、一国の重職に在るべき人物には相応しい威厳を兼ね備えている鬼才の持ち主。
 
 
それが"テルミット"であると誰もが語るが、この時ばかりは普段は封印している一人の『ヒト』としての主人を垣間見たように青年達は感じたのかもしれない。
しかし、それはただ一時のこと。次の瞬間、青年達の瞳に飛び込んできたのは普段と変わらぬ自由奔放な主人の姿だったのだから。
 
 
 
「……とはいえ、私は断じてそのようなくだらぬ制約などに縛られたりはせぬ。それ故、自らの思い描いた通りの道をただ突き進むのだ。そのような者の護衛など、気苦労が絶えぬであろう?」
 
 
 
悪びれもせずに、振り向き様にしれっと言い切った『テルミット』は、妖艶に笑った。――まるで二人の青年を試すかのように。
 
 
 
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