姫さんの奴隷様っ!
 
 
 
重苦しい空気を破ったのはキサの笑い声だった。
元々笑いの沸点がとてつもなく低い彼ではあるが、"テルミット"に叱責された直後ということもあり耐えようと試みたようだが、どうやら堪え切れなかったらしい。
 
 
 
「やーやー。そのオキソ様にほったらかしにされてる程度の役職だってのに……ククッ……ホント、命知らずなんだね〜、君達。……あー…ハハッ。今時、この国の重臣ですらそんな冒険しないって……プククッ」
 
 
「……キサ、お前は正直過ぎだ。確かにこの者達は無礼千万な振る舞いをしたが、流石の俺もこの者達を賞賛せずにはいられない」
 
 
門番達へ向けられたウヅキの鋭い目つきが哀れみの色へと変わったのは、お調子者のキサに言動に付き合わされる苦労を哀れんだからではない。
これから待っているであろう門番達の未来を思うと自然とそうなってしまったのだった。 
 
 
「名を名乗れだと?……フッ、残念だが、身分を弁えぬ愚か者に名乗ってやる名など私にはない」
 
 
「……な、何だと!」 
 
門番達は悪びれもせずにきっぱりと言い切った"テルミット"への怒りを現にする。それは目の前の不審人物が、"テルミット"であるとは夢にも思わなかったが故の愚行だとは気付かずに。
 
 
だが、しかし、名の代わりに私の役職を教えてやろう、と言った"テルミット"は、顔と髪を隠すように巻いていた布に手を掛ける。
そして白い布の下から現れたのは、偽りの笑みを貼付けた一国の重鎮その人だった。
 
 
 
「私は"テルミット"。その名を知らぬとは言わせぬぞ、小僧共」
 
 
さらに"テルミット"は、先程とは打って変わって動揺した門番達に追い撃ちをかける。
 
 
 
「俄かには信じられぬと申すならそれも良かろう。だがな、覚えておけ。私がその気になれば、貴様らの首を飛ばすことなど造作もないということを」
 
 
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