姫さんの奴隷様っ!
 
 
 
「……ふっ。……どうやら、舞を弁えぬ低俗な輩の前に貴様が斬られたいらしい。そうだろう、キサラギ?」
 
 
こめかみに青筋が浮き出るほど憤慨しているウヅキに、キサは一気に青ざめる。先刻まで楽しそうに笑っていた顔は引き攣(ツ)り、表情は硬い。
それもその筈。ウヅキはキサを"キサラギ"と呼んだだけでなく、腰に携帯していた剣を抜き、今にもキサに斬り掛かりそうな程の殺気を放っていたのだから。
 
 
 
「ちょ、ちょっ!……う、ウヅキさん……?待てって!わ、分かり合うための話し合いも時には必要だと思いますよ!いや、マジマジ!」
 
 
「黙れ!問答無用!」 
 
必死でウヅキを説得するキサに、聞く耳を持たないウヅキ。
それを止めたのは"テルミット"の一言だった。
 
 
「止めぬか!馬鹿者が!私は、切り合いをさせるために貴様ら護衛を引き連れて来た訳ではない!」
 
 
"テルミット"の怒声を聞いた途端、キサは捨てられた小犬のように縮こまり、ウヅキはそそくさと剣を鞘に収めた。
まさに"テルミット"の言葉は効果絶大だった。
 
 
「して、そこの。さっさと門を開かぬか!私は気が短いのだ」
 
 
いかにも面倒そうに催促してくる"テルミット"を、門番達は横柄な人物だと思ったのかもしれない。
機嫌を損ねた門番二人が初見の時より一層"テルミット"とその護衛を怪訝そうに見ている。そして口々に"テルミット"を攻撃し始めた。
 
 
 
「素性も知れぬような者を通す訳にはいかん!我々は此処の警備を王都守備陣の長であるオキソ様に仰せつかっているのだ!」
「そうだ!此処を通りたければ名を名乗れ!」
 
 
思いの外鋭い言葉という名の刃――それをを向けた相手が"テルミット"であると知らずに。
 
 
 
.
< 13 / 14 >

この作品をシェア

pagetop