比丘尼の残夢【完】
「唇でなくても結構良いでしょ?
... まぁほんとに最中に死んだら、俺に襲われたって言いなさいよ。
なんだけっこうあの人元気だったんだ、みたいなね」

そうですね、そうします。

襲われたのならどなたか優しい殿方が同情して、お嫁にもらってやろうという人がいるのかもしれません。



行きませんけど。

もうこれが最後です。

最後なのに忘れてしまったら、大変ですから。


「ご主人様ぁ」

死なないで。


でも、これは言わないという医者との約束だ。

医者のおかげで比丘尼にでも、なんでもなってやる覚悟ができた。

これくらい守らないと顔向けできない。


「私の名前は直嗣です。
ナナミも呼んでみなさい、一度くらい」

目の前の男は、仕掛けた悪戯に引っかかるのを待っているような顔をしている。

私が初めて感じた愛しいという感情は、胸が締め付けられるような悲しみを伴った。


「ナオツグ」
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