比丘尼の残夢【完】
... 大切な白飯が、私の口からポロリと落ちた。


「兄ちゃん、...... あんな面」

壊したか? という顔で、彼は引き戸の天を掴んで見上げていた。


あれ、こんなに背の大きな人だったっけ。


大勢狭い中にいるというのに、ようやく引き戸を開けた人物と最初に私の目が合った。

何度も夢に出てきたから、変わってしまっていてもすぐにわかる。

こんな服装をしていたのはあの人の弟で、あの人が同じ格好をしたらきっとこうなる。


「よう、相変わらずなんか食ってるな」

なんて懐かしい笑い顔。

大好きなあの声。


驚かせようと突然訪ねてくるあたりは、この人も相変わらずだ。


だらしない姿からは脱出したのか、ネクタイなんてしていると恰好よいではないか。

きっと外には黒塗りの高級車。

白い手袋をした運転手さんが、扉をあける。



みんなが口をあけて唖然としている中、私は立ちあがって土間に飛び降り、彼に抱きついた。
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