ADULT CHILDREN
当時のその光景が瞼に焼きついたままで今でも鮮明に思い出せる。



瞬きする事さえも忘れ私は二人を見つめていた。

この先どんな言葉が出てくるのか。
心の中は不安でいっぱいだった。


「…いくらあるの?」


重いため息をつく母と似たため息をつき父は諦めたように答える。


「…500万」


「もう…いい加減にしてよ…」



母はいつものように怒鳴ったり、叫んだりしなかった。

意外にも冷静だった。




後に知った事実。
それは、この時実際の父の負債が1000万近くあった事。


私が産まれる前から複数の消費者金融に手を出しており、同級生や会社の友人、
父の親戚等からとあらゆる場所からお金を借りていた。



この時、私は覚悟していた。


母が離婚すると言い出す事を。


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