あまいの。
─映画のワンシーンで観たことがある。
高層ビルの屋上から何故か宙ぶらりんになった主人公。
主人公の命は、相手役の腕一本にかかってるわけ。
「あなたまで落ちちゃうわ、はなして」
だとか、主人公は涙ながらに言っちゃうわけだね。
─もしも、手をはなしたら。
「宙ぶらりんの彼女は十何階下へと真っ逆さま、あっという間にジ・エンドってわけ!」
「…で?」
台所から出てきた彼女はコーヒーカップを2つ手に、浅くため息をついた。
俺たちを挟んだテーブルの上に、ゴトンと2つのコーヒーカップ。くるくると白い湯気が回って、穏やかな香りを鼻先へ運ぶ。
いつも思う。彼女の入れるコーヒーは美味しい。