流れ橋
「大丈夫?」わたしは、そばに行ってそっと声をかけてみるが、返事がない。

手を触ってみる。まだ、温かく体温を感じる。
お父さんの体を激しく揺さぶってみるが、さっきと変わらず目を閉じたままいる。

わたしの体が、どんどん重くなっていくようだ。息が苦しい。

ふと、仏壇に目をやると、そこには封筒が一枚と空になったガラスの瓶が何本も置いてあった。

お父さんの顔を見た。顔色が悪くて、目を閉じたまま寝ているようだ。

このビンの中身を全部飲んだのだろうか。

わたしは、体が重くてたまらない。ついに、お父さんのそばに腰を下ろしてしまった。

お父さんの顔。なぜか、涙がでない。体が重くて、このまま沈んでいきそうなほどなのに。

その時だ。「ピンポーン。」玄関のベルが鳴った。

そうだった。外で、田中俊が待っている。助けを呼ぼう。行かなくては。わたしは、スカートをぎゅっと握った。そして、腰を上げて部屋を出ていった。

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