アマテラス!
**********
朝霧の立ち込める神社に一人の老人が立っている。
人間一人分の体積が減り、いささか空虚になった敷地で一人思いを馳せる。
「行ったか……」
「寂しいか」
老人の独り言に応える声があった。
「……つくも様」
「畏まるな」
一陣の風と共にどこからともなく現れたのは一人の少女。
癖のある黒髪に悟ったような凪いだ瞳。
巫女装束を身に纏う少女は目の前の老人を見据える。
「とうとう始まったな」
「ええ……」
「そう気落ちするな。すべては定められていたこと……必然だ」
「……出来ることなら」
あの子をこの旅には出したくなかった。
老人が言えなかった言葉をつくもと呼ばれた少女は察したのか、ひとつ頷いた。
「案ずるな。すべて上手く行くよう我々も全力を尽くす」
「……分かっております」
突如少女の周りに旋風が巻き起こる。
「彼らの旅路に栄光あれ」
少女の姿は旋風と共に消え去る。
後に残されたのはひらひらと舞い踊る桜の花びら。
「天照……」
老人は空を仰ぐ。
眩暈するようなどこまでも蒼い空が広々と広がっていた。