『クルマとタバコとカンコーヒーと…』【リアル物語ケータイ小説版】
第150話

 39℃。

真夏日を越えた暑さのなかでのクリスマスイブ。

 実感が湧かないクリスマスという響き。

街中には半袖のサンタクロースやサーフィンするサンタが飾られている。

 その夜、ローストチキンを買ってきた母親と2人きりのクリスマスディナー。

 テーブルにはケーキとロウソク。

そして少しの花束を飾って29歳の息子と母親のクリスマスパーティーが静かに行われた。

「なぁかーちゃん、俺が病気じゃなかったら、この歳になって2人でクリスマスやることはなかっただろうな」

「そうね、あなたとクリスマスやるのはいつぶりだったかしら」

 ジュースをグラスに乾杯する2人。

「メリークリスマス!」

「メリークリスマス」

「サンタさんにお願いしなくちゃね」

「そうだね」

「早く移植の順番が来ますようにってね」

「俺たち調子いいよな」

「なんで?」

「だって、クリスチャンじゃねぇーじゃん」

「いいのよ、神様なんだから」

「かーちゃんは日本人だな~」

「そうよ、日本人よ」

 ローストチキンの端っこを一口かじる昭太郎。

 ケーキを食べ終えた食卓。

昭太郎がポツリと始めた。
「あのさ、移植の順番が早く来ますようにって・・・誰かが死ぬのを待ってるってことなのかな・・・」

「・・・そんなことないわよ、何言ってるんだろうねこの子は」

「・・・・・」

 しばらくの沈黙。

母親は食器を片付けはじめる。

キッチンで洗い物をしながら母親が言う。「移植ってプレゼントなのよ。亡くなった人からのプレゼント。だから、あなたは感謝してもらえばいいの。難しいこと考えなくていいのよ」

 
洗い物をする母親の背中に言った。
「そうだね、俺はプレゼントを待ってればいいんだね」



 【あの頃の僕は自立した社会生活を送っていないことからか、自分が子供のような気持ちになっていた。
本来であればそろそろ母親を助けていくはずの年齢ではあったが、面倒をかけながら生きている状況に子供を感じていたのだと思う。
病気は人を成長させるが、病人でいることは自立できないということでもあるのだ。】

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