天使の足跡

大急ぎで支度をして家を飛び出し、電車に乗って約束の場所に向かう。


なるべく急いだつもりだが、拓也はもう待っているだろうか。



駅を出て辺りを見回し、彼は耳を疑った。


どこからか、透き通った音がする。


半分くらい騒音に掻き消された透明な音……


(風……?) 


風が吹くような、かすかな音。

それは彼の足を、音の方へと運ばせる。

少しでも近づきたくて、少しでも傍で聞きたくて、その風の吹く方へと知らぬ間に足を走らせていた。


引き寄せられるように、その音に近づいていく。


彼は肩で息をしながら、そしてついに風の発生源を突き止めた。



(……風なんかじゃ、ない)



ギターの音だ──

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