天使の足跡

単に僕を信頼していたから話したわけではないと、僕は知っていた。

仕方なく、話す羽目になってしまっただけなんだ。


「本当に僕は何も……」


だけど、その事情を彼らに言うことはできない。

なんていったって、あれは浴室での出来事。
思い出すと、また自己嫌悪に陥りそうだ。


「やっぱり、癒威は笑ってるのが一番よね」


と姉が言う。


「あの子は天使だから」

「天使……?」

「そう。私はそう思うの」


天使には男女の区別がないだとか、男女の中間だとか、そんな話を聞いたことがある。

それが本当かどうかは分からないし、問題じゃない。

どういう意味を持ってそう例えたのか定かでなかったが、美しい言葉だと思った。
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