天使の足跡

ようやく集中し始めた、その突如。

携帯電話が、ベッドの枕元でブーブー唸りをあげた。


初めは無視しようと思ったが、しばらく鳴り続けていたので、仕方なく掴んだ。

電話か。誰だろう? また母さんかな。


しかし、画面に表示されている名前を見て、びっくりした。


〝咲城加奈〟


つまり、僕のイトコだ。

ちょっと思い出していただけなのに、調度良いタイミングで電話してくるなんて。

面倒臭くて、ため息混じりに応答する。


「……もしもし?」

『あ、タク? 私のこと、覚えてる?』


『タク』というのは、僕のニックネームだ。

小さい頃から、彼女とその家族だけがそう呼んでいる。


「『覚えてる?』って、去年の夏休みも電話しただろ?」

『そうだけど、ずっと会ってないでしょ?』

「そうだけど」


もう一度溜め息をついた。


「それで、何の用事?」

『今年は家に帰るのかなと思って。もしそうなら、タクも一緒に帰ろうよ。私、来週には帰ろうと思ってるの』

「母さんからも言ったんだけど、夏は帰るつもりはないんだ。いろいろ忙しいからさ。叔父さんたちによろしく言っておいて」

『そっか、残念だな。でも、お正月には今度こそ帰ろうね?』

「分かってるって」


全く、姉面も得意なんだから。

すっかり世話好きになってしまって、僕としては余計なお世話だと言いたいところだ。


その時、ふと太田と同じ学校にいることを思い出し、聞いてみたくなった。
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