天使の足跡
「……あのさ。加奈の学校に、太田って奴いる? 太田癒威」

『うん、同じクラスだよ。何で?』

「その……実は最近、友達になったんだ」

『本当に? どこで知り合ったの? 学校違うのに』


それは言わない約束だった。


けれど、加奈は根も葉もないゴシップには興味を持たないから、彼の話をしたところで悪いことは言わないだろう。


「偶然、会ったんだよ。部活も同じだったし、お互いに覚えてたからさ。
でも、誰にも言わないで。僕がこの話をしたことも、太田には黙ってて欲しいんだ。……こっちの学校で、変な噂が立ってるんだ」

『噂? あの、「不良生徒」っていうデマのこと? 時々学校休んだり、夜中に街を歩いたりしてるみたいだけど、私の学校では悪い噂なんて誰もしてないよ。進学の費用のために、一生懸命働いてるんだって』

「大学の学費を稼ぐために、バイト掛け持ちしてるってこと?」

『そう言ってたよ。それなのに、他の学校の生徒は不良扱いするなんて、酷いよね。……でも、タクが黙っててって言うなら、黙ってる』

「ありがと」

『太田くんって近寄りにくそうに見えて、思ったよりいい人だよ。私も、あまり話したことないけど』

「ふーん……そっか」

『ごめん、私これから補習だから、そろそろ切るね?』

「ああ、分かった」

『本当に、今年中には帰るんだよ? じゃあね』


と念を押して、通話が切れた。












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