天使の足跡






午後の授業が残り3分に迫った頃、僕は浅い眠りから浮上した。

窓際の席に座っていると、どうしてもあれこれ考えてしまうから、気付くといつも眠ってしまう。


耳ではラジカセから流れる英語を聞き、目は外に向ける。

知らない間に、グラウンドの上を、分厚い雲が覆っていた。

朝はあんなに天気がよかったのに、ザーザー雨が降っている。


いつまで降るんだろう? 
傘、持ってきてないや……。



そんなことを考えていると、前の席の女生徒が指名され、ガタッと音がした。

僕はハッとして、残りの2分、授業に向き合った。






授業が終わり、一斉に教室が賑やかになる。

田中のテンションも賑やかになって、僕の目前に現れた。


すぐ隣の席なのに、わざわざ目の前に立ちはだかる理由は、あの話題しかない。


「最近どうしてる? まだ会ったりしてるのか?」

「してない。大体、南高の生徒だろ? そんなに会う機会なんてないよ。勉強で忙しいし」


──正直、面倒だった。


太田のことは信じる者だけがいい奴と思って接すればいい訳で、田中の噂や悪口に、まともな対応をする気はなかった。





 * * * * * *





雨は降り続けた。


おかげで少しは涼しく感じるけれど、僕と同じように傘を持たなかった太田が、少し心配だった。


時計が午後8時半を指した頃、玄関から物音が聞こえてきて、彼が帰宅したらしいと知った。

夕飯当番の僕は、キッチンから玄関を覗き込む。


そこには、最悪だ、と呟き髪を払う太田がいる。


「傘持っていけばよかったなあ!」
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