天使の足跡
「まあ確かに。でも! お前と違って真面目に練習してる俺がレギュラーじゃなきゃ、格好つかねーだろ?」


部活を休みがちな癒威がレギュラーになり、真面目に部活をしている三谷がベンチだというのは張り合いがない──そういうことらしい。


着替え終わった部員から、次々に部室を後にする。

そんな中で、ぽつりと癒威は言った。


「……じゃあ、部活やめる」

「はぁ!?」


ネクタイを締めた三谷の手が止まる。

着替えが済んだ癒威は、「先行ってるよ」と言い残して部室を後にした。


「ちょっ……太田!? 待てよっ‼」


それから予鈴が鳴り、ややしてから三谷も大慌てで部室を出ていく。




まっすぐ教室に戻る前に、三谷は体育館の傍のトイレに寄った。

本鈴まで、あと3分くらいはある。

三谷はそのまま用を足そうとしていたら、同時に個室のドアが開いた。


「わっ!」


誰もいないと思っていただけに相当びっくりして振り向いてしまう。


視線の先には癒威がいて、彼も同様に目を開いていた。


「なんだ、三谷か! びっくりした」


あははと笑いながら手を洗っている癒威を見て、用を足すことも忘れて言う。


「お前こそ、いきなり個室から出てくるから驚いたぜ」


本鈴が鳴り響く。

沈黙の後、三谷は1つ咳払いした。


「クソは家でしてこいっつーの!」


三谷が想像していることが分かっていたから、


「違うよ、電話してただけ」


と言って苦笑した。











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