天使の足跡
「でも、それでもいいかなって、思った。
今じゃそんなに気にしてないし、誰かに話したりすることじゃないって思ってた。もちろん、槍沢くんにも……。
でも、さっき一瞬思った。この体のことを知られて、嫌われるんじゃないかとか、笑われるんじゃないかとか……考えたら……すごく怖くなった」


ぎゅ、と膝の上で拳を握る手に力が籠る。


「槍沢くんには分からないかもしれない、分かりたくもないかもしれない……だけど、今までそういう風に考えて──」


ふと、太田が顔を上げた。



「──それでも、ここまで生きてきたんだよ──」



その一言が、僕の心臓を貫通した。


心が破裂したように、僕の心の中に何かが蔓延していくのを感じた。



(それでも、ここまで生きてきた──)



高校にもなれば外見や心の問題は無視できなくなる。


それは彼だけの問題ではない。


周りの考えや視線が刺に変わる。

悪ければ偏見を持たれるかもしれない。

学校内での生活だって、難しい。

体育の着替えや水泳授業など、毎度のように体をさらす時が来る。


そんな場面で、いつ知られるだろうかと幾度となく不安に駆られただろう。
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