天使の足跡






話には聞いたことがあった。


何らかの原因で、性別が未分化のまま生まれてくる人があるらしい、と。


「両方の性腺を持って生まれた時……母さんは女にしたがっていて、父さんは男にしたがってた。
名前だけは母さんの意向でそれなりにされたけど、戸籍上は『男』にされた。
父親はあくまでも男として扱うつもりだったから、自分がいつも殴られる理由はそこにあるんだと思う」


太田が軽く息を吸い込む。


「中学校に入るまでは、そんなことどうだってよかった。自分の事を、男だと思って生きてきた。
だけど高校に上がって、声の高さとか、力の差とか、心の問題とか、もう気にせずにはいられなくなってきて……。

病院に行くことも考えたけど、それで全てが解決するわけじゃない。何かの治療で周りの目はごまかせても、頭の中では両方の自分がいる。
どっちつかずの思考のあり方は、変わらないから」


項垂れて、やり場のない思いをぶつけるように拳を握り締めた。

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