天使の足跡






帰りのホームルームが終わった教室は、いつも騒々しかった。


その教室に入ってきたのは、クラスは違うがバイトで一緒の大野だ。


「槍沢」


真っ直ぐにやってきて、僕の机の前に立つ。


「今日はバイト、来るのか?」


僕は一瞥しただけで、すぐに窓の方へ視線を逸らした。


僕はまだ、大野を恨んでいる。

大野が誰かに僕と太田のことを話してくれたせいで、田中にまで噂が伝わってしまった。

それに加えて、本当のことを言えなかった自分自身も恨んでいた。


「お前に、話したいことあってさ」


そう言い淀む彼の声を遮るために、僕は思い切り立ち上がった。

さっきまでの騒々しい教室が一瞬にして静まり返る。


いつも大人しく生活している僕だから、周りも不審に思ったのだろう。


黙って教室を出ていく僕の後を大野が追ってきた。


「槍沢!」


僕は完全に無視していた。

ところが、長い廊下の途中で肩を掴まれる。


「槍沢! ごめん」

「ごめん? 何が?」


苛立ちをあらわにした表情をする僕。


大野が手を放す。


床を睨んでいる僕に大野は言った。
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