花の教科書
「それじゃあ後日、詳しい話を聞かせてもらうから、今日はもう帰りなさい。送って行くから」
警官は優しくそう言って、パトカーのキーを取り出した。
あの後、倒れている彼を見つけた私ははすぐに携帯で119をダイヤルした。それから異変に気付いた先生方が駆け付けて来て、この状況である。救急車に担ぎ込まれた篠田くんには、担任の橋谷先生が付き添った。
軽く色々と質問されて、その時の状況を説明すると、私はどうやら『無関係な第一発見者』と認識されたらしい。
「いえ、あの、いいです。家近いし、歩いて帰れますから」
私は丁重にお断りして、その場から走って逃げた。
「あ、キミ。待って待って」
だが、あっさりと捕まった。体育の成績が9の私をあっさりと捕まえるなんて……さすがは警察だ。
「明日、この番号から連絡が来ると思うから……何時くらいなら都合いいかな?」
警官は名刺のようなカードを取り出して私に手渡した。警察署の名前と電話番号が書かれている。
「別に何時でも……あっ」
「どうしたの?」
「出来ればでいいんですけど、私の携帯に連絡もらえませんか? 自宅だとちょっと……」
警官は口籠もる私の微妙な心情を読み取ったのか、「いいよ」と笑って了承してくれた。私は小さなメモに自分の番号を書いて彼に渡し、深々と礼をする。
「それでは今度こそ、失礼します」
それから私は家までの道を出来るだけ遠回りしてゆっくり歩んだ。