花の教科書
「ただいまぁ」
結局、家に着いた七時を半刻ほど過ぎた時間だった。
「……あらあら、遅かったのねぇ」
玄関でくつを脱いでいると奥から祖母が顔を覗かせて「おかえり」と付け加えた。
「テスト期間だしね、勉強してたの」
そう言いながら祖母の横を通り過ぎて、仏間の障子を開けた。うわっと線香の香りが溢れだしてくる。うっすらと暗いその部屋には、黒い縁の写真が二枚飾られている。
私は線香を一本追加して、手を合わせた。すると台所から祖母の声がした。
「花菜ちゃん、お腹すいてないかい? 羊羹があるんだけれど」
「食べる食べる」

