隣人の狂気
俺が駆けつけた時には既に人垣が出来始めていて、周りの人々は何かを大声で口々に言っていたが俺の耳には入ってこなかった。

意識が死体に釘付けになっていたからだ。

最初の印象は『アスファルトにめり込んだ奇妙なオブジェのようだ』だった。

しかしそれは本当に一瞬だけで、すぐに死体にしか見えなくなった。

意外なほど損傷の少ない身体は、まだ生命の残滓さえ感じられ、今なお広がっていく血だまりは体から命がこぼれ落ちていくのを痛感した。

その血はとても温かそうに思えた。

広がる血だまりはやがて歩道の端に達し、側溝へ流れ込み始めた。

『命がドブに流れる』

死体を見た事よりもこの事の方が強く俺の胸に迫った。

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