隣人の狂気
ちょっとかがんだ姿勢で目線を合わせたまま2・3歩後ずさった。

そのまま動きを止める事なくクルリと叔父さんに背を向けて大通りへ向かって歩き出す。

一度も振り返らなかった。

その表情はまだ陰惨に薄ら笑っているままで、ワタシ自身も人事のように自覚していた。

(今のワタシの表情はあの時の彼と比べてどうなんだろう?

ああ、彼は笑ってはなかったっけか)

幼かったワタシに狂気の種を蒔いた彼と共通する物は、その尋常ではない光をたたえる眼差しだけだった。
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