GODDESS
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少し頬を赤らめてそう言ったあーくん。

あたしは予想外の言葉に目を丸くした。


今、なんて?


「ほら、行くぞ!」


ギュッと握られた右手から感じる体温は冷たくて

どれだけ彼が外で待っていてくれていたか、直に伝わった。


「ねぇ、どこに行くの?」


歩きはじめて、数分。

あたしは耐え切れずに口を開いた。


「秘密。それより、寒くない?」

「…寒くはないけど…」


秘密なんて言われたら気になるじゃん。


「あーく…」


“あーくん”と呼ぼうとしたあたしの唇は立てられた人差し指に塞がれて、

何か、と顔をあげたあたしの瞳には優しい笑みを浮かべたあーくんが写った。


「今日だけは“葵”って呼んで?」


立てた人差し指をひき、その手であたしの頬を撫でて懇願するようにそう言った彼。

あたしは頬が熱くなっていくのを感じた。


「呼んで?」

「………っ!」


熱い…
そんなの呼べない。

なんでだろう。
恥ずかしい―…


「…あの時はあんなに呼んでくれたじゃん?」


耳元でそう言われ、あたしの身体はピクリと跳ねた。

彼の…葵の吐息が耳にかかる―…


「ちえり?」


しっとりとした声音。

あたしはそんな彼の声音につられるように唇を開いた。


「……っ葵」


ゆっくりと噛み締めるように彼の名を呼んだ。

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