俺様先生と秘密の授業【完全版】
 
 ……直斗は、そのまんま、何も言ってくれない。

 あたしの質問にも答えず。

 例えば。

 好き、とか。

 ……愛してる、とか。

 ………キライ、とか。

 そんな、言葉一つなく。

 ただ。

 ただ、あたしを抱きしめているだけで……

 その、腕の強さは。

 見れば、何を考えて居るのかすぐ判るはずの直斗の表情を、知る余裕が無いほど強かった。

 さっきまで吸っていた、タバコの匂いが、切なかった。


「……痛いよ、直斗」



 力強く、抱きしめられているカラダが。

 何も言ってくれない、心が。



 ……痛いって。



 そう、悲鳴を上げかけたときだった。

 バイクのエンジン音が。

 この奇妙な静寂を切り裂いた。


 そいつは、あたしたちを見ると、バイクを降りずに、怒鳴った。



「加月さん!」

「岸」

「岸君!」

 そう。

 この海岸にやって来たのは、さっき、置いて来たはずの岸君だった。


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