職人の娘。
「着いちゃった…」


駅前までが、やたら短く感じた。


「どれだよ?どの人?」

「ほら、あれだって。頭に白のタオル巻いたさあ、白いニッカの人」

「まじ??ちょ−美人じゃん!!」


葉子は手足をバタバタさせて喜んでる。


あたしは、鬱だって…


「よし、入るぞ」


深く息を吸い込んで、店のドアを開けた。


いらっしゃ−い!!


男の人の威勢のいい声の中に、ハスキーボイスが重なって聞こえた。


「…ほまれ?」


ああ、来た。


「お母さん…お疲れ…」


もうやだ。


お母さんが中から出てきた。


「お前…」


あ−、殺される


「金髪似合うのな。」

「え?」


何かのコントみたいに、こけそうになった。


「まだお前、やり切れるでしょ。中途半端あ−、恥ずかしくないの、子ヤンキー。」


お母さんは、手を叩いて笑ってる。


あたしは…立ち尽くす以外に無いし。


「何?伊紗希さんの娘さん?」


厨房の中から、他のスタッフが笑いながら覗きこんでる。


「そうだよ−、娘!!」

「伊紗希さんと似てなくないっすか−?」


ずきっと胸が痛む。


お母さんと、あたしは似ていない。


あたしは見た事もない、お父さんと瓜二つらしいから。


「そうなんだって、あたしに似ないで可愛いじゃん?」

「ホンマっすね−!!似たら最悪っすよ、女王だからね−」

「うっせ−よ!!」


あたしの気持ちなんか知らないように、お母さんは店のスタッフと笑いながら話してる。


「まあ、ゆっくりしていきな」


そう言うと、また厨房へ戻っていってしまった。


「男らし−…」


圧倒されたらしい葉子は、一言呟いて黙って席へ移動していった。
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