職人の娘。
カウンターに横並びで腰掛けて品書きを見ていても、お母さんの視線が気になって仕方ない。


「葉子」

「ん?」

「あたし、二度と来ない」


クスっと笑った声が聞こえた。


「かっこいいじゃん。ほまれのお母さん。」


そう言って、厨房の中を指さす。


視線を上げた先には、麺の湯切りをする母親の姿があった。


熱湯が腕に落ちても、笑顔でいる。


後ろ姿が、あの謝罪の日と同じだった。


「女王だね。」


葉子はそう言った。


「向かうところ敵無しの、完全無敵の女王様。そんな感じがする。」


注文すら忘れて、お母さんを見つめていた。


葉子の言葉と一緒に、お母さんの笑顔を…満面の笑顔を、あたしは初めて見た。
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