職人の娘。
いつだかと同じように、階段をノコノコ上がっていく。


廊下を向かって右側の並びに、お母さんとあたしの部屋が並んである。


『入って…みようか』


ふっとそんな事を思った瞬間、昼間にあたしを支配した《あの感情》が、腹の底から沸き上がってくるのを感じた。


温度差を感じた、甘えの心。


カホゴナンダヨネ。


ミハリツイテテサ。


葉子の言葉が頭の中を過ぎ行く。


ドアノブに手をかけた。


ゆっくりと回していく。


物心ついた時には、この部屋の記憶が無かった。


一緒に眠った記憶すらない。


なら、部屋に入って、あたしが娘だって証拠を掴みたい…


「不法侵入。」


驚いて振り返ると、和則おじさんが立っていた。


「姉貴と一緒。」

「…何がだよ」


おじさんは不適な笑いを浮かべて、手招きをした。


「不安になったら、どうしてでも気持ちを確かめたい辺り」


かあっと頭が熱くなるのが分かる。


「不安になんかなってねえよ!!馬鹿にすんじゃねえ!!」


勢いで大声になってしまった。


「そう、それも。気が短い所も。」


和則おじさんは、ホストだった。


お母さんの六歳下で、ホストの経営者。


顔がお母さんと同じだから、腹が立つ。


「仕方ないよ、ほまれ。あの人は職人だから」


ゆったりとした口調で、おじさんは言った。


「命かけてるもん。自分の城を築きたいから。まあ俺は姉貴のその考え、大嫌いだけど」


遠い目で、あたしを見つめてくる。


「気が付いたら居なかった相手、あたしなら憎みようがないね。」


おじさんが次の言葉を吐露する前に、言い切りたかった。


ホマレガ、イルノニ。


その一言を言われたら、崩れてしまう。


昔からそう思ってた。
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