煌めきの瞬間
「逃げてばっかだね」
え……。
「いつも自分が困ってても何も言わないし、心のどこかでどうにかなるって思ってる?」
「楓さん! 春香ちゃんはそんな子じゃなっ――」
「おまえもだよ」
安藤さんは口を挟んだ大地くんにも同じ視線を向けた。
「好きなものから逃げても、また新しい好きなものを見つければいいって?」
安藤さんの言葉の後、大地くんの表情が急に変わった。
大地くんのこんな顔、初めて見る。
何かに背を向けるように目を細めて俯いていた。
「その場から逃げたって、逃げきれることなんてないよ。
それを一番わかってる奴が、共感するような言葉を口にして気持ちを誤魔化すな」
静かだった中庭に、木の葉を大きく揺らすほどの強い風が吹いた。
安藤さんの真っ直ぐな瞳が胸に刺さり、痛くて苦しい。
けどそれは、わたしだけじゃなく大地くんもだった。
わたしたちは、体育館に戻って行く安藤さんの後ろ姿を見る事が出来なかった。