時雨の夜に
唐突すぎる悲しい話に、私はただ、狼狽することしかできない。


「会えなくなるって、どうして──?」



──私のことが、嫌いになった──?



「澄川さんと別れたいんじゃない、……仕事の、都合で……」

「仕事? 仕事って……『雨男』の?」


私は少し訝しむように、呆(あき)れ気味に尋ねた。


「……しばらく、ここを離れなきゃいけない。俺は、ずっと同じ場所にはいられないから──」

「いつから行くの?」

「……明日」

「明日!?」


私は声を荒げた。


「そんな大事なこと、何でもっと早く言ってくれなかったの!?」

「ごめん、俺──」

「本当は私のことなんて、どうでもいいんでしょ? 『雨男』だなんて夢みたいなこと言って、最初から消える口実しか考えてなかったんだ!?」



──最初から騙されてたんだ、私──。

──「同じ場所にはいられない」だなんて、
私じゃダメだったってことなんだよね──。



なぜか、涙が頬を流れる。


「澄川さん……」


それを見たシグレは、どこか痛んだように眉を寄せていた。

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