逝く前に








「では、ご自宅ではなく会館の方へと運ばせて頂きます」








知らない人はそう口にすると、一礼をして部屋を出て行った。




それと入れ違いで母さんが顔にハンカチを当てて入ってきて、口を開く事もなく俺の横に立ち、顔に掛かっていた布をそっと外した。








『うわぁ……髭伸びてるし』








死んだ自分の顔を初めて見たけれど、数日間、ICUで管に繋がれていたわけで……。




どうしようもなかったのはわかるが、汚い。




頬は痩けて、無精髭が生えていて、実際の年齢よりかなり上に見える。








「ごめんね……」








母さんは、痩けた俺の頬を撫でながら、ぽつり…と力なくそう呟いた。










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