六天楼(りくてんろう)の宝珠
「区の端に車を止めてくれ。歩いて様子を見よう」

 部下の意図を、碩有も理解したらしかった。

 南に下ると、打って変わって派手な色の建物が目に入る。道行く人はいないが、建物の傷み具合はさほどでもなく、むしろ豪勢に飾られていた。

「どうやら抜き打ちで視察に来たという情報が漏れたらしいな」

 碩有は吐き捨てた。

「だとしても、建物までは急にどうこう出来ますまい。これは相当娯楽施設に力を入れている様子。洛庁への届出もせずに、言い逃れ出来ると思っているのでしょうか」

「……西邑へ回るぞ」

 町の産業には決まりがあり、変える場合には鳳洛の公文関『洛庁』に届出、許しが出た場合にのみ変更が叶う。領土内の物資や貨幣の流通に関わるからだ。

 守らなければ国は均衡を失い、経済の混乱を招きかねない。

 何より領主を主を思わない不遜な行いである。

──扶慶という男、ここまで浅慮を為すとは思わなかった。

 声の低さにとてつもない怒りを感じて、朗世も黙って後に従い車に戻った。




 脚注:瓊瑶とは美しい宝石や、素晴らしい贈り物のことを言います。「ほうぎょく」はあてルビです。

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