時雨
「………………私も」
「ん?」
「私もそう思う。」
私がそう言うと心弥は
私の頭をくしゃっと撫でた。
そのときの心弥の顔は、
本当に嬉そうで、
でもどこか悲しそうだった。
心弥は私の頭から手を離すと
「今日、泊まって行けよ。」
と言った。
「……うん。」
私がそう言うと、
「よし、空弥にも言っとくわ。」
と、言って笑った。
心弥の家に、泊まるのは
すごく久しぶりだ。
私が最後に心弥の家に泊まったのは
お父さんとお母さんが死んだ日。
一人になった家で、
冷たくなった家で、
ただただ独りになるのが怖くて、
夜、突然行った私を心弥や心弥のお母さんは
暖かく迎えてくれた。
心弥の家に泊まる度に思う。
訪れる度に思う。
【ここの家は暖かい。】と。
でも、暖かさを知った後に
冷めきった冷たい床に
足をつけるのは、
苦い。
だから、私はその日以来
心弥の家には泊まっていない。
それでも心弥は何度か誘ってきてくれて
でも私は断っていて、
今日“久しぶりの誘い”に
“久しぶりの返事”をした。
